出エジプト記(츌애굽기)１：８－２２　　　二種類の人間

　　キリスト教信仰の本質についての問い
　　約１０年以上、キリスト教神学を研究している者として、私は私自身に対する一つの問いがあるのです。それは「イエス・キリストを信じること」は、一体どういうことなのか、というキリスト教信仰の本質についてのあまりにも素朴な疑問です。なぜ、私たちはキリストを信じなければいけないのか。なぜ、キリストが必要なのか。どうして教会を形成し続ける必要があるのか。この世においてキリスト者としての私たちの存在の意義はどこにあり、またどういうことなのか、といった疑問です。

　　冒頭で申し上げました「キリストを信じる意味」についての自己自問は、真のキリスト者となることを指すのです。それは口で言うほど簡単なことではありません。そこには「自分自身」を犠牲しなければならないからです。その犠牲は、他の言葉で言えば、この「世の常識から離れること」を意味するのです。この世の生き方を棄てることなのです。「イエス・キリストの救いの恩寵の媒介体としての生き方」であり、「キリスト者は救済的な存在である」ということを意味すると思います。もし、皆さんの中でこうした「イエスを信じることはどういうことでしょうか」と問われたら、どう答えますか。

　　歴史は神様のもの
　　今朝与えられた箇所は私たちがよく知っているところです。この箇所の特徴を一語で申し上げますと「出エジプトの前史、つまり前の歴史」だと言えると思います。私たちは「出エジプト記」というと、すぐにモーセという預言者を思い出すのです。あるい
は神様の奇蹟、荒のでのイスラエルの生活などが浮かび上がるのです。

　　ところが、聖書、特に歴史書を読めば、すぐ分かるように、神様は必ず人間の歴史の中で行われた神様のお働きには、神様ご自身が備えられた「準備期間」があるのですね。こういう箇所を読んでみますと、正に人間の歴史というのは、神様に統治されていることが分かります。また、神様の奇蹟や救いのお働きは、一瞬間的なものではなく、歴史を通して既に計画されているものである、ということを分かりますね。言いかえれば、人間の歴史というのは神様のお働きの歴史であり、神様ご自身のものである、ということなのです。人間の歴史は、神様の救いの媒介体です。

　　二種類の人間：パラオ
　　今日の箇所では2種類の人間の例が出てきます。一つは、ファラオであり、次は、二人の助産婦たちです。エジプトの王であるファラオは、不信仰的な人間の典型的な人物だと特徴つけられます。まずファラオのことを考えてみましょう。彼は現実的な世界観の持ち主だったと考えられます。目に見える世界という可視的な世界を重んじた人間でした。その限界をもっていました。彼にとって世界は水平線、あるいは地平線が世界の境でした。近視眼的な目の持ち主だったのです。こうした考え方をもっていたので、彼は人間を取り巻いている外部的な条件、または環境を改善すれば、その結果として幸福、幸せが訪れると信じていたのです。人間が人間を幸せにすることができると信じ、そうした人間の知恵や働きが幸福の源であるとしたのです。

　　１）９節、彼はイスラエルの数のみをみたのです。こうした外的なことが彼の不幸の根源と考えていたのです。「見よ、イスラエルびとなるこの民は、われわれにとって、あまりにも多く、また強すぎる」と。
　　２）1１節、重い労役でイスラエルの民を苦しめたのです。これが、自身を取り巻いている環境に巻き込まれないように、自己防御の手段であって、また彼の人間的な知恵だったのです。
　　３）またファラオは、イスラエルの民の生活を苦しめたのです。１４節では、厳しい労役をさせることを通して、子供を産めないようにしようとした彼の計らいでした。
　　４）さらに、ファラオは助産婦にして、男の子を殺しなさい、という殺人命令をしました。こうしたファラオの行動は、自分の欲を満たせるための行動でありました。しかしながら、その結果は、どういうことだったのでしょうか。１２節にいきますと、恐れから自由にはなれなかったのです。幸せな環境は彼自身が思った通りに造ることは出来ませんでした。

　　信仰生活の否定的な面
　　ここに私たちが学ばなければならない教訓があるのです。ファラオの行動を私たちに適用してみましょう。それは、信仰生活において私たちが犯しやすい否定的な側面です。つまり、功利主義的な信仰、現世利益的な信仰の問題です。こうした問題は信仰生活において第一次的な問題ではありませんが、してはならないことなのです。それは、自分の夢をかなうためにイエスを信じてはいけないことなのです。自分の欲を満たせるために、イエスを信じてはいけないでしょう。私たちの理性の中でイエスを信じてもいけないでしょう。あるいは社会的、また自分の環境を改善するために、イエスを信じてもいけないことではないでししょうか。神を自分の思い通りに信じてもいけない、ということなのです。こうした信仰形態から解放されるべきです。

　　二人の助産婦たち
　　もう一種類の人々、助産婦のことを考えてみましょう。彼女たちはヘブライ人でありながら、ファラオに雇われた人々です。ところが、彼女たちはファラオとイスラエルの民の間にいた「中間的な存在」だったと言えます。しかし、実際には神様とイスラエルの民の間で働いていた「仲立ち的な存在」だったと言うのが最も正確な言い方でしょう。この人たちは、ファラオと根本的な違うところがありました。それは、ファラオは「人間を恐れた」のですが、助産婦は「神様を恐れていた」ことでした。

　　ある方々、フェミニストーらは、この箇所を読んで、やはり男より女のほうが強い、歴史を動かしていたのは、女性だと言っている方々もいるらしいですが、こうしたことは議論の余地のないどんでもないことでありまして、もしそんなことを言われましたら、耳を傾ける必要がない無益なことでしょう。

　　では、二人の助産婦たち、この人たちの信仰的な偉大な点を挙げて見ましょう。
　　１）17節、ファラオを恐れず、神様を恐れていたことです。「しかし助産婦たちは神を恐れ、エジプトの王が彼らに命じたようにはせず、男の子を生かしておいた」と。　　
　　
　　２）命の大切さを分かっていたことです。助産婦たちは、命は神様からくるものであることを分かっていて、彼女たちはただ神様から送られた道具にすぎないという自己に関する知識の持ち主であったのです。ファラオとは異なって、現世的な利益を追求することはしませんでした。神様の栄光とその義を求めることが優先的なことであったと考えられます。彼女らは「命の橋」であったと言えます。「命へ導く橋」だったのです。真実はキリスト者の典型的な例をみることができるのです。

　　命の橋
　　説教の冒頭で申し上げましたが、「イエスを信じること」はどういうことでしょうか。今日の御言葉を通して一つの答えが与えられたと思います。それは、イエス・キリストのように「仲立ち的な存在となること」だと言えます。自分の人間的な夢を演じるための信仰観から脱皮して、キリストと罪人の「中間的な存在」となることです。罪人とイエス・キリストとの間に立っている存在なのです。キリストが私たちと神様の間で仲立ちになり、私たちの罪をお赦しくださり、そうしたお働きの結果、私たちは救われました。私たちは命が与えられました。それは、キリストの十字架の贖罪のみ業による大きな、また絶対的な、恵み、祝福だったのです。キリストは神様と私たちとの恩寵のチャンネルでした。キリストを信じることは命に預けられることなのです。私たちが望むべきことは、現世的な幸せだけではなく、最も根本的なこと、天国での生活ではないでしょうか。神様に赦されたことを確信し、赦しの存在となることではないでしょうか。キリストのように、恩寵のパイプとしての役割を行うことなのです。

　　イエス・キリストは私立ちに「福音を宣べ伝えなさい」と仰せられました。それは、神様の恵みを宣べ伝えなさい。キリストの贖罪の恩寵のパイプになりなさい。罪人とイエスとの間に立つ、中間的な存在になりなさい。命の橋になりなさい。仲立ちになりなさい、こうしたことを教えるのではないでしょうか。私に与えられ、体験した神様の救いの恵みを体験させることこそ、ここにイエスを信じる、キリスト教信仰の根源的な意味、また「恩寵の媒介体」、さらに「命の橋」として選ばれた私立ちの存在の意味があるのではないでしょうか。人間を生かす「命の橋」としての自己認識がありますように。