ローマ15:14-21　　　　　　　「この恵みとは」　　　　　　　　　　　

　　友達とか知り合いの救いについて考えてみたことがありますか。彼らの救いのために深く考え、言いにくい苦心－いろいろ努力しています－と苦しみを経験したことがありますか。また、彼らの救いを自分自身のこととして、考え、お祈りしたことがありますか。もし、そうしたことが今まで一度もなかったら、「今、ここて」、我々の信仰を確かめしなければならない、と思うのです。なぜかと言いますと、自分の家族、親戚、友達、そして知り合いの救いについて苦しむこと、また自分の問題とするのが、真のキリスト者の信仰であり、その姿であると言えるからです。

　　あるキリスト者姉妹の物語です。彼女は仏教を信じる男性と結婚しました。異なる宗教を信じる夫、彼のご両親と生活するのは、彼女にとって、大変なことでした。しかし、あまり失望しませんでした。なぜかというと、彼女は、自分自身を神様ご自身からの宣教師だと考えていたからです。そして、そのことを明確に信じました。その時から彼女は、毎日、大変な生活の中でも、自分の夫の救い、またご両親の救いのために、祈りし、伝道し、そして彼らのために自分自身を犠牲にしました。約30年間、そういうふうな生活を続けて過ぎました。彼女の信仰によって、全家族の人々がキリストを信じ、救われるようになりました。これが真のキリスト者の姿勢だと思います。皆さんはどう思いますか。

　　真のキリスト者となるのは、口で言うほど簡単なことではありません。自分自身を犠牲しなければならないからです。その犠牲を、他のことばで言えば、この世の常識から離れることを意味するのです。この世の生き方を棄てることなのです。我々は、キリストを信じているものですから、この世の知恵、知識、富、名誉などから別れを宣言すべきであります。これは、世の知識、知恵で説明することが出来ません。そして、世の常識では理解することも出来ません。神様の恵みを体験したキリスト者はこうのように変わるのです。それは、神様の恵みは、この世の常識では説明できないからです。

　　イエスの弟子であったペテロは、弟子として受け入られた後、自分の家族、自分の仕事をも捨てて、イエス様に従いました。アンデレも、ヨハネも、ヤコブもそういうふうに、イエス様に従いました。世の知識から考えて見ると、理解できないことでしょう。世の常識から考えると、いい息子、いい旦那とは言えないでしょう。こうしたことは、我々の常識以外の問題であります。

　　ルカの福音書19章を見ると、ザアカイという人が出てきます。彼は徴税人でした。彼の人生の目的は、お金を稼ぐことでした。お金が彼の心の支えであって、価値観だったのです。利己主義を持っている人でした。しかし、彼がイエス様に会った後、以前のザアカイとは違う人となりました。自分の財産の半分を貧しい人々にほどこしますとイエス様に言い、そして、誰から何かだまし取っていたら、それを四倍にして返しますと言いました。このことは、また世の常識では理解できないことでしょう。これが神様から恵みを与えられた、真のキリスト者の姿勢だと思います。

　　今日、神様が与えられた御言葉は、パウロの信仰の告白であります。彼は神様から与えられた恵みを誇っています。その恵みは、我々が思っている恵みとは、まったく違うものであります。富物となったということはありません。自分の知識を誇るのもありません。自分の名誉でもありません。パウロが誇っている、神様の恵みは、自分自身が神様の僕となったということであります。異邦人のため、神様から使命を与えられたということを誇っています。そうしたことが15-17節に著しく書かれております。

　　19節を見てください。パウロは、福音の宣教のため、福音を告げ知らせようと、エルサレムからイリリゴン州まで、巡ったと言いながら、自分のような弱いものが、また足りないものが、福音を述べ伝える使徒となったということを誇りし、そのことについて、神様に感謝しています。これがパウロの信仰であり、誇りであります。

　　皆さん、考えてみて頂きたいと思うことがあります。パウロが伝道旅行をするとき、彼は大変な苦しみ、苦難を受けたわけでしょう。しかし、パウロは不満とか、呟きを言いませんでした。そういうことよりも、自分の苦難も、パウロは誇ります。コロサイ書1:24を見ると、「彼は苦しむことを喜びとし、キリストの苦しみの欠けたところを、身を持って満たしています」と告白しています。またコリントの信徒への手紙11:18以後を見ると、パウロは、自分が一生の中で受けられた苦しみ、苦難を誇っています。これがパウロの信仰であり、彼の恵みであります。

パウロが誇っていた神様の恵みは、自己意識、また人間的な価値観、さらには自分の将来の計画、人間的な計画など、彼自身が信じていたすべてのことを捨てることだったのです。それらは、これまでの彼の心の支えだったのです。人間はよっぽど優れた人格の持ち主ではない限り、自己、信念、そして心の支えを一気に棄てることは出来ませんね。

　　ローマ書9:1-2を見ると、パウロは自分の同胞であるイスラエルの福音化が彼の願いであり、宣教計画でありました。9:3を読んでみると、「同胞のためなら、キリストから離され、神から見捨てられた者となってもよいとさえ思っています」言っています。同胞の救いがパウロの人間的な計画でありました。そのために、自分がイスラエルの使徒となることを切に願っていました。民族の救済がパウロの願いでありました。

　　しかしながら、15:16-17を読んでみると、パウロは自分が異邦人の使徒となったことを誇っているということが書かれてあります。パウロの心が変わってしまいました。彼は、異邦人のために、殉教の羊となりたいと思っているし、また、最も願っていたことは異邦人の使徒となることだったのです。これは、実はパウロが真に願ったことではありません。神様の御胸でした。神様の御心でありました。神様から与えられたパウロの使命だったのです。これをパウロは「神様の恵みであり、神様から恵みをいただいた」と言っているのです。ここで、神様から恵みをいただくから、自分の計画も捨ててしまうパウロの姿勢、信仰が見られます。

　　キリストを真に信じることは、あまり難しいことではありません。もちろん、あまり容易なことでもないと言えるのです。もし、我々が、神様の御心を深く考え、神様の御胸に自発的に順応し、謙遜に随順していけば、そして神様のために自分自身を犠牲すれば、我々もパウロのような信徒となるはずであり、神様の使徒として生けることができる、と思うのであるのです。我々が我々の自己から離れ、真のキリスト者となることが出来るのは、神様の恵みによって与えられる祝福です。