第一ヨハネ１：５－７　　交わりとしての信仰

　　出会い
　　私たちがよく使っている言葉なの中で「出会い」という言葉があります。これは「思いかけず会うこと」、また「巡り会い」という意味なのです。私たちの人性の中では様々な出会いがあるのです。時には出会いによって私たちの人生が変わることもあるのです。「誰々との出会いによって自分はこうなったとか。また、昔ある書物との出会いによって、あるいは、ある思想との出会いによって自分の人生が変わったと、我々はよく言っています。それゆえ、人性は出会いの連続だと言っても過言ではないと思うのです。

　　ある牧師の話
　　大学院の時、教えられた指導先生のお話です。彼は牧師の末っ子として生まれたのですが、彼が生まれてからまもなく、お父さんは殉教したそうです。彼は、幼いごろから夢を持っていましたが、それは俳優となることでした。やがて彼は、大学に入り、四年間劇部で活動し、大学を卒業してオーストリアに演劇を学ぶために留学したそうです。

　　彼は、自分の夢を実現するという決心で毎日一生懸命に稽古したそうです。ところが、稽古をすればするほど挫折感が訪れ、「これで本当にいだろうか。俳優になるのが、人性に価値があるものだろうか」という、これまで全然考えなかったこと、問題にならなかったことが考えさせられたそうです。いわゆる、実存の危機を感じたそうです。

　　ある日、彼は稽古を終え、フーロアに横になっていました。その時、ある声が聞こえたそうです。「お前本当に私を捨て、俳優になるつもりなの。今、何をやっているの」という声だったのです。これは挫折感の中でいた彼を訪れた神様の配慮だったのです。劇団の練習室のフーロアで彼は、神様と出会ったのです。それによって彼は神様の「愛」を感じたのです。その後彼は、俳優の学びを止めて、新しこに導かれたそうです。それは、牧師の道でした。

　　このように人間の人性は神様との出会いによって変わるのです。神様との出会いというのは、人間にとって、特に私たちにようなキリスト者にとってただ偶然ではないし、「巡り会い」でもないのです。それは、「必然的なもの」なのです。そして神様との出会って始めから、私たちと神様との人格的な関係、すなわち「交わり」は成り立たされ、始められるのです。皆さんはいつ、どこで神様と出会いましたか。

　　出会いによる祝福
　　キリスト者にとって必然的なものである出会いというのは私たちにとって大きな祝福だと言えるのです。それは、私たちが神様との出会いを通して神様を知ることが出来るからです。神様との出会いによって私たちは神様の人格を知ることができ、また自己に関する知識が与えられるのです。神様がどういうお方なの。自分に何を望んでおられるのか。また神様から与えられた人生で何をすればよいのだろうか等、神様の御心を知ることが出来るのです。それと、神様との出会いによって、私たちは神様の人格を学び、いくら努力してもそれは不可能なことであるということを悟り、神様の御前で謙遜な者になります。そして神様の絶対的な恩寵のみを求めるようになります。

　　神様との出会いによって私たちは、神様はいつも人間との交わりを願っておられることが分かって来るのです。申命記３４：１０をみると「モーセは、神様と顔と顔とを合わせた人」だったのです。これは、モーセ自身が神様と一生涯、交わりをもっていた預言者であったということを意味するのです。モーセは無名な羊飼いに過ぎましたが、神様との出会いによって預言者として選び出されたわけなのです。神様との出会い、そして交わりを通して、彼の人生は神様にとって貴重な人生になりました。このように、神様との交わりは私たちの人生を価値あるものとするのです。

　　しかしながら、こうしたことより最も大事な祝福が与えられるのです。それは、神様に対する信仰が形成される、ということなのです。信仰は何処から来るものでしょうか。あるいはどのように形成されるものでしょうか。それは、神様との出会いにとるものなのだと言えるのです。アブラハムの場合がその代表的な例えなのです。彼は、異邦人だったのですが、神様との出会いによって信仰が与えられたのですね。その信仰は一生涯、変わることはなかったのです。アブラハムの一生は、神様との交わりだったと言えます。

　　イエス・キリストの弟子たち、彼らは皆田舎の漁師に過ぎましたが、救い主であるイエス・キリストとの出会いによって福音的な信仰が与えられたのですね。それによって彼らはイエス・キリストとの交わりが出来、イエスの人格を学ぶことが出来る祝福が与えられましたね。このように、神様と人間との出会いは一回に終らず、継続的なものです。神様との聖なる交わり関係に入ることは、信仰が与えられる祝福なのです。また、こうしたことを通してキリスト者は神様の人格を学ぶことが出来るようになり、私たちの人生を価値あるものとされるのです。

　　神様の人格：光
　　ヨハネ使徒が私たちに伝えるのはこうしたことなのです。人間にとって神様との出会いは偶然ではなく必然的なことなのだ。キリスト者が神様の人格を学ぶためには、神様との交わりは必須なことなのだ。そして神様との交わりが許されたら、その時点から学んだ神様の人格を現すことは当たり前のことだ、ということなのです。一言で言うならば、「キリスト教信仰は神様との交わりである」ということなのです。

　　聖書は神様について、最も性格に言えば聖書を通して啓示された神様の人格について語っております。聖書を通して私たちは、神様はどういうお方なのか、その人格、あるいは人柄について学ぶことが出来るのです。神様の人格を学ぶことが私たちの信仰における最終的ゴールとなるべきであることは、言うまでもないことでしょう。確かにその通りなのです。

　　ヨハネが言う神様の人格は「光」なのです。５節でヨハネは「私たちがイエスから既に聞いていて、あなたがたに伝える知らせというのは、神様は『光』であるということであり、神様には闇が全くない、ということです」と語っています。ここでヨハネが言う「光」というのは、今日我々が言う電気のような「光」、また蛍光灯などを指すのではありません。そのようなものではなく、まず「真理」ということを意味するのです。ヨハネはこうしたことをイエス・キリストの証言を引用し、そのことを最も明確にしております。ヨハネの福音書４：２４で、イエスは神様の人格についてこう言って居られます。「神様は霊である。だから、神様を礼拝する者は、霊と真理をもって、礼拝しなければならない」と。すなわち、神様は偽りのない方である、ということなのです。

　　次に、神様の人格が「光」であるということは、神様はいつも変わらない心をもって居られる方であることを意味するのです。ヤコブ使徒はこうしたことを次のように言っております。「御父は光の源であり、彼には移り変わりもなく、陰もない方である」と。つまり、ヨハネのいう神様の人格は「真理であり、偽りがない方であり、暗いところが少しもない方、即ち光の源であり、移り変わりのない方である」ことなのです。真実、義であるお方が神様である、ということなのです。

　　真理を行うこと：神様との交わり
　　このように、ヨハネの言う神様の人格は「光」、すなわち「真理、真実あるいは義である」と言い換えられるのです。ここで一つの疑問が生じてくるのですね。それは、果たして、罪人である私たちと真理である神様との交わりが成り立たれるのだろうか。それが可能なことで、実現されることなのか、という問いかけです。その答えをヨハネは「光の中を歩むこと、つまり真理を行うこと」が神様との交わりである、と教えているのです（６－７節にそうしたことがはっきりと書かれております）。

　　しかしながら、もう一つの疑問が生じてくるのですね。それは、果たして罪人である私たちが真理を行うことができるだろうか、という疑問なのです。神様の人格である「光」を現すこと、実践することが可能なのでしょうか。生まれながら罪人である私たちが、神様の人格である「真理」を実践することは出来ないことでしょう。それは、聖書が証言している通りなのです。

　　ところが一つの解決方法はあるのです。それは、「神様に導かれること」なのです。ヨハネによる福音書３：２１にこういうことが書かれております。「しかし、真理を行う者は光からくる。その行いが神に導かれてなされたということが明らかになるために」と。この箇所から考えてみると、私たちが真理を行うことができるようになることは神様によって可能であり、神様の導きによって「光」としての生活ができ、そこで神様との交わりが成り立つのです。ですから「神様との交わり」とうのは、神様に導かれ、神様によって真理を現されること、またそのような行われることである、ということなのです。これが先ほど述べたように神様に信仰が形成されたこと、すなわち「交わりとしての信仰」なのです。

　　７節でヨハネは「しかし、神様が光の中におられるように、私たちが光の中を歩むなら、互いに交わりを持ち」とキリスト者同志の交わりについて教えております。信者同志の交わりは「神様の光の中でいること」なのです。神様の真理をもって互いに行うことなのです。これは、心を開き、真実をもって交わることを指すのです。神様が罪人である私たちに、神ご自身の真実さをイエス・キリストを通して言い表したと同じように、それを通して神様の御心を現されたと同じように行うことなのです。これが「真の交わり」となるからです。

　　人間社会の問題
　　「英雄の条件」という映画を見たことがあるのです。その内容は、国を愛したある黒人大佐の物語なのです。彼は、ベトナム戦争で、その後アメリカが参戦した戦争に指揮官で参戦し、中東のイエメンのアメリカ大使館でデモが起き、アメリカの大使を救出したのです。イエメンの群衆が、しかも子供たちもアメリカ海兵隊に銃を撃ちました。それによって、大佐の部下３人が死にました。大佐は群衆に向かって銃を発射と命じ、イエメン群衆は皆、死にました。これが原因になり大佐は、アメリカ軍法廷で裁判を受けるようになったわけです。ところが大佐の部下も、大佐によって救出されたアメリカの大使も法廷で偽証ばかり言いました。結論は無罪となったのです。

　　この映画を作った監督は、おそらく人間の心って偽りをもっているということを言いたかったのではないか、と感じました。ですから、人間関係もなかなか難しくて、人格対人格の関係ではなく、人格対物という関係、いわゆる「我とそれ」の関係になってしまっているのではないか、ということなのです。

　　どうして神様は私たちに「交わりとしての信仰」を与えられたのでしょうか。これは、なぜ私たちが「交わりとしての信仰」を持つべきなのか、ということなのです。罪人ですから、人間関係がうまくできない、そういう私たちに神様は何を望んで居られ、私たちは何をすべきなのか、という問いかけなのです。こうしたこと全ては、神様に導かれなければならないのです。

　　自分の穴の中で
　　石川達三氏の『自分の穴の中で』という小説をご存知でしょうか。彼が言った「自分の穴の中で」という言葉は、ドストエフスキの『カラマゾフの兄弟』という小説に出ていることなのです。石川達三氏の小説は、ある大学教授の家庭のことを書いたものです。大学教授が死んで、未亡人と先妻の二人の子供がいました。三人の登場人物は、家族なのに自分のうちに閉じこもってしまっているのです。家庭では心を開いて交わらなければならないのに、皆自己閉鎖してしまっています。皆、エゴイストだったのです。お母さんはまま母で、二人の子供を大事にしない、お兄さんは肺病で結婚しているのに、その妻は面倒を見ない、妹のほうはその病気が移されたら大変だからお兄さんとあまり深く交わりをしない。一切、人格的な深いコミュニケーションが断たれている状況なのです。

　　ここで描かれた家庭は現代社会を浮き彫りにしたようなものだと思われます。現状の人間に出会いがないという嘆きが隠されているのです。親と子、恋人同志、夫婦の間のさえ、人格関係が結ばれていない。そういうことではないかと思います。

　　真の交わり
　　しかし、神様は全く反対な形で私たちに来られ、出会ってくださり、私たちを一人の人格として認められ、交わりができるようにしてくださったのです。これを私たちはもう既に体験したのです。それによって、私たちは神様から「交わりとしての信仰」という素晴らしいものが与えられました。このような神様の御心を持つのは、キリスト者同志の交わりのためにも必須不可決なことではないでしょうか。ここで「交わりとしての信仰」を神様から与えられた責任が問われるのではないででしょうか。

　　私たちは神様との出会い、主との交わりが許されたので、そうしたことを通して信仰が形成され、いわゆる「交わりとしての信仰」が与えられました。これを通して、まず私たちは「光」である神様の人格を学ぶべきなのです。それは、神様が「真理」である方ということなのです。私たちも神様から学ばれた真理、すなわち神様の人格を行うべきであり、これが神様との交わりとなることを忘れてはいけないと思います。そしてキリスト者同志の間で、私たちは神様の真実をもって、互いに交わりをすべきなのです。さらに、自己閉鎖的社会の中で、そのような人間関係の中で、神様の人格を表すべきなのです。また、私たちの教会がこの世の共同体の中で模範になるように働くこと、これらが私たちに与えられた働きなのです。