エステル記４：13―17　　　　　　　自覚的信仰

　　本日、私たちに与えられた箇所は、エステル記の全体において、主題とされているところでありまして、ユダヤ人という信仰共同体において、神様からリーダーとして用いられたエステルの信仰の覚悟が書かれている箇所だと考えられるのです。特に、１６節では、「私は、王のもとに参ります。このために死ななければならないでしたら、死ぬ覚悟であります」ということが書かれておりますが、ユダヤ民族の救いのために、神様から用いられたエステルの「自覚的信仰」が、著しく表現されております。

　　このようなエステルの信仰的決断は、私たちクリスチャンが信仰的な危機に直面した場合、この世において所謂「キリスト者」として、どういう決断と態度を取るべきなのか、ということについて学ぶことが出来ると思います。また、神様が私たちキリスト者らに求めて居られる信仰、さらに進んで、教会の宣教において、指導者である、私たちが持つべき信仰に関しても、エステル記を通して教えられるのです。三つのことが考えられます。

　　神の選びの確かさ
　　まず、神様はエステルの信仰と働きを通して、「神様の選びの確かさ」を私たちに教えておられると、思われます。これは、「神様はご自分の民の救いのために、神ご自身が選んだ人間を、一番適切な場所に送られる」ということなのです。

　　１４節にこういうことが書かれております。「あなたが王妃に達したのは、もしかしすると、ユダヤ民族を救うためではないか」と。神様は選ばれた民、ユダヤ人の救いのために、エステルを王の妃の位に、上げられたのです。エステルが神様から指名された大きな理由、また最大の目的は「神様の救いの御業を実現させること」でした。つまり、エステルは神様から送られた宣教師だったと言えるのです。このように、人間は神様の御業の実現のために神様から選ばれ、用いられるのです。

　　１９世紀に、学生信仰運動がアメリカから始まりまして、全世界の福音化のために、数多くの学生がアジアやアフリカなどに宣教師として派遣されました。ある報告書によると、「１９世紀末ごろ、中国には約５０００人の宣教師が派遣されていた」と、そして、北京大学は宣教師が建てた大学だそうです。日本も韓国も大体同じように、多くの「宣教師たち」から、神様の祝福が与えられた、と言えます。

　　「宣教師」というのは、私たちはただ単純に、異教文化の国、あるいは異文化地域に行って、イエス・キリストの福音を宣べ伝える者、そしてそのような働きをする人を指す言葉であると、考えられます。確かにその通りなのです。

　　宣教師としてあるいは牧会者として、神様に献身する人たちの最大の願いは、日本とか韓国といった非キリスト教的国々に、キリスト教化されている国の文化を、移植しようとするために、献身するのでは、決してありませんね。それよりも、最も次元の高い目的があるのでしょう。それは「魂の救い」ということなのです。神様は「人間の魂の救い」のために、その時代や環境に一番相応しい、人間を選び、用いられるのです。そして、その特定の人を通して、「救い」という「愛の御業」を完成させます。

　　祈りの信仰
　　１６節に行きますと、エステルはユダヤ人の救いのために、三日三晩断食を持って働く準備、という信仰的決断をするのです。エステルはまず、この時のために、自分自身が神様から選ばれた信仰に立っているのです。そしてそのような信仰の具体的な表現として、断食祈祷を決意したのです。しかし、断食祈祷をするその自体が重要な行動だ、とは言い難いと思います。

　　祈りを持って準備することは、神様に全てのことを任せることを意味すると思われるからです。神様の御前で、謙虚な姿勢を取ることなのです。私たちに与えられた神のお働き、果して私たちの力で全うすることが出来るのでしょうか。教会においての宣教の働きを、私たちの知識や限られた知恵で、全うすることが出来るのでしょうか。

　　人間の力、知恵では、どうしようもない時、またそのような環境に取り巻かれている時、つまり「八方塞の時」解決の糸口が見えない時、神様が自分の代わりに、お働きをなさることを求めること、それが「祈りの信仰」ではないか、と思います。私たちクリスチャンにとって、さらに教会の宣教においてリーダーとして選ばれている者にとって最も必要なことは、神様の御前で、謙虚に「膝を折ること」なのです。つまり、自覚的信仰というのは、その根底において神様に対して祈れる信仰が要求されるのです。

　　最後まで導く神
　　説教の冒頭においても、申し上げましたが、神様に対するエステルの信仰告白が１８節に書かれていると思います。それは、エステルが自分の命まで捨てるという決断でした。このような覚悟が出来た最大の原因は、神様の助けと導きを信じていたからでした。
　　私たちの神様はご自身の群れを最後まで、助けて下さり、導かれているお方なのです。そのために、神様は私たちの周りの環境、歴史さえも動かして下さるのです。エステル記の全体に書かれているように、この世の制度さえも、神様はご自分のものとして、用いられるのです。

　　罪を犯し、その結果、永遠に滅ぼされるべき運命に陥ってしまっていた私たちを、神様はイエス・キリストの十字架の御業を通して、罪を赦され、「救い」という祝福をお与えになりました。それは、神様の絶対的な恵みによるものです。そこに問題は、その神様の力、助けまた導きを日々の生活の中で、また一日生活の場面、場面で、切に、求めているのかどうか、ということではないか、と思います。
　
　　今日において、私たちがキリスト者として選択されたこと、神様から神の者として指名されたのは、私たちの救いは勿論、「魂の救い」のためなのです。今現在が神様が私たちお定めになった時であり、私たちの生活の場所が、神様の宣教の御業を全うすることができる一番適切な場所なのです。つまりこの時代に、またここに我々は「福音宣教師」として送られたというわけなのです。キリスト者の共同体として与えられた教会も、「魂の救い」のために存在し、そのような働きに尽力しなければならないのです。そこに、選びの信仰に立つことが神様から私たちに要求されます(エフェソ人への手紙１：３－１４)。

　　そして、歴史を動かされるお方は、世の政治家などの、この世の中で権力を握っている人間ではなく、神様お一人であることを認め、告白し、イエス・キリストのようにただ御前で謙遜に膝をつく信仰が必要なのです(マルコの福音書１：１４)。エステルのように、我々が恐れる相手は、王みたいに我々の肉体のみ滅ばせる人間ではなく、魂さえ滅ぼせる神様お一人であることを自覚すべきです。そして、キリストが我々のために、お卑下になさったように(ピリピ人への手紙２：４－６)、いつまでも自分を低める信仰なのです。さらに、神様はお選びになった者を最後まで愛し、導いて下さるお方である、という「自覚的な信仰」に立つべきではないでしょうか。