胎児教育実践のための聖書的アプローチ



　　はじめに
　　大型書店に行ってみますと、胎児教育に関する書籍、雑誌、そしてCDなど、様々なものがあります。それらのものの特徴はほとんどが、英才教育を目的とする人本主義的なものであり、現代の社会と文明に大きな影響を与えているポスト・モーダニズムとニューエージ（New Age）思想に基づいて作られたものです。多くのクリスチャンのお母さんたちは、キリスト教的胎児教育に関するものが欠如されているため、現実的には反キリスト教的なものを用いているのです。こうした現実を目の当たりにしながら、子供を祈りと御言葉をもって育てていく責任を負っている私たちキリスト者らが、胎児教育を教会教育の一つの分野として定着させることは勿論、聖書的な答えを示すことが何よりも必要であることを強く認識するようになりました。
　　１９６０年代以後、医療技術の発展に伴って、母体の中にいる胎児の成長の形がより明らかになりました。それは胎児が受身的な精神を持っていないという、従来の小児科学といった文献に書かれていることとは全く異なることでした。胎児は見ること、聞くこと、感じることさえもでき、さらには母親の感情まで読み取ることができる、独立した人格体であることが明確にされたわけなのです。
　　胎児が母親の母体にいる約２８０日は、人間の生涯において一番発育が活発な時期であり、０．６mgの受精卵の重さは新生児になると約３kgになるのです。こうしたことは、胎児が母親の母体の中で、５百４０万倍に成長することを意味するのです。一言で言えば、胎児にとって胎内での生活はとても大きなものであり、このように活発に成長する時期だから、母体内にいる胎児に対する教育的環境を整えることは、胎児の人格形成と身体の成長に大きな影響を与えると考えられます。それゆえ、申命記６章のシェーマ教訓のように、胎児の時期から神の言葉をもって育てていくことは必要なことなのです。そうしたことを通して、その御言葉が胎児によって告白されるように、胎児を教育させていかなければならないと思うのです。


　　胎児についての聖書の教え：神の働きによるもの
　　ダビデは詩篇１３９編を通して、私たちの命が単純な化学的な有機体、また細胞の成長などによるものではなく、神の「人格的な働き」によって母体で胎児の形になり、神の驚くべき「働き」によって成長されるものとして表しています。

　　「あなたは、私の内臓を造り、母の胎内に私を組み立ててくださった。私はあなたに感謝をささげる。私は恐ろしい力によって、驚くべきものに造り上げられている。御業がどんなに驚くべきものか、私の魂はよく知っている。秘められたところで私は造られ、深い地の底で織りなされた。あなたには、私の骨も隠されてはいない。胎児であった私をあなたの目は見ておられた。私の日々はあなたの書にすべて記されている。まだその一日も造られてないうちから」（詩篇１３９：１３－１６）。

　　１６節の「胎児」というのは、「embryo」（unformed body）で、それは妊娠３ヶ月以前の胎児を意味するのです。しかしながらダビデは自分が「胎児」のときから「神の手の働き」によるものであると告白しています。胎児として認識される以前の「胎児」であっても、つまり受精された瞬間から、神はその胎児を見守ってくださるということなのです。また、ダビデは１６節で完全に造られないうちに、自分の日々のすべてが神の命の書に記されている、と賛美しています。このようなことは、生まれる以前の胎児の成長発達はもちろん、出生後の人間の生活すべてが、神の驚くべき導きであるということを指すのです。以上のような「胎児に対する神の働き」について私たちは次のような聖書箇所を通して確認することができると思います。
　　＊エレミヤ１：５
　　＊イザヤ４４：２
　　＊ヨブ記１０：８－１２

　　また、聖書は人間の命を「神さまからの賜物」と教えています。人間の命は神さまのものであり（エゼキエル１８：４）、人間に命を与えられたお方は神さまからです（創世記３０：２）。すべての人間の命は、命の主人である神さまから与えられたものであり、それゆえ人間の命は生まれる前から尊いものになるのです。人間の命、すなわち妊娠と誕生などのすべての本質は、単なる生物学的な現象のみを意味するのではなく、神の賜物、神の働き（詩篇１２７：３、１２８：３－４）によるものです。つまり人間の命は「神ご自身」のものであるということなのです。

　　聖書は胎児を尊い存在としてみており、神に似た形として、神の救いの御業の器であると言っています。聖書によると胎児はただ母体の一部分であって、母親によって左右される存在ではないのです。人間の「もの」だという考え方は間違った見解です。胎児が母親の母体の中いるものであっても、その命を母親が左右できないことは、その命の持ち主は神であり、また人間の体は神の聖なる宮であると聖書が教えているからです（第一コリント３：１６、第二コリント６：１６）。それゆえ、胎児は母体に依存して成長、発達していても、母体と根本的に独立した存在と認めなければなりません。

　　胎児教育の聖書的妥当性
　　聖書は、子供たちは神が親達に預けた尊い嗣業であると同時に、神からの報いであると教えています。「見よ、子らは主から頂いた嗣業。胎の実りは報い」（詩篇１２７：３）。胎児は宿命的にこの世に投げられるものではなく、また親達の経済的な負担をかけるために生まれる存在でもないのです。聖書によると、親らが子供を育てるべき動機は、創造主である神から大きな賜物を頂いたという喜びと感謝にあるのです。胎児は神からの賜物であるが、これはまた尊い責任を神の前で取らなければならない、ということをも意味するのです（創世記３０：２、３３：５、４８：９、申命記７：１３、詩篇１２８：３－４）。
聖書によると、神から胎児を預けたという神の賜物は、神の愛を表す神の恵みであり、また人間に対する神の祝福です。聖書は、妊娠を人間の祈りに対する「神の応答」と教えています。
　　＊イザクとその妻リベカの妊娠（創世記２５：２１－２３）。
　　＊ヤコブの妻ラヘルの妊娠（創世記３０：２２－２４）。

　　驚くべきことは、この二人は不妊の女性であったということなのです。神は人間にとって不可能なこと、つまり不妊の女性らより、子供を産めることを通して、神ご自身の栄光を顕したのであります。このような出来事を通して分かることは、神が人間の胎内を神のものとして用いて居られる、ということなのです。親らは子供らのために送られた「僕」つまり「管理人」に過ぎないのです。胎児は親らのものではなく、神のものであるから、親らにはこの幼い命に対する敬虔な養育の義務が負われているのです。それゆえ、子供たちに対するキリスト教的信仰教育は、妊娠の前から始めるべきなのです。敬虔なキリスト者であるならば、妊娠の前から、神が妊娠させてくださるように、子供のために祈るべきであると思います（サムエル記上１：９－１２、２０、２：１－２）。キリスト教家庭の子供らは、願望と期待感をもっている親らを通して生まれ、預けられるものです。

　　親らの祈りの答えとして預けられた子供らは、その出生から他の子らとは異なる霊的な次元の中にいるのです。聖書によるとまだ妊娠されるない前から、神が計画し、その子供を信仰的に育てることができる親に神が預け、そうしたことを通して、神ご自身が栄光を顕した出来事があるのです。その典型的な出来事は次のようなことが挙げられるのです。
　　＊サムソンの親マノアとその妻の物語（士師記１３章）。
　　＊エルカナとハンナの間に生まれたサムエルの出来事（サムエル記上１章）。
　　＊バプテスマヨハネの出来事（ルカ１章）。
　　＊ヨセフとマリアのイエス・キリストのインカーネーション（マタイ１－２章）。

　　士師記１３章は、マノアが生まれてくる子供の育ち方を教えられるために、神の使いと出会う箇所です。神の使いはマノアに次のようなメッセージを与えたのです。「ただその方は、私が身をごもって男の子を産むことになっており、その子は胎内にいるときから死ぬ日までナジル人として神にささげられているので、私にぶどう酒や強い飲み物を飲まず、汚れたものも一切食べないように」。

　　ナジル人は「区別された」「ささげられた」といったヘブライ語「ナザール」から由来した言葉であり、自分の身と人生すべてを「聖別して神にささげると誓願をたて、献身した人間」を指す言葉です（民数記６：１－４）。ナジル人として神によって聖別されたサムソンは、ぺルシテの人の手からイスラエルの人々を救った士師となったわけです。

　　神から賜物として与えられた子供はまた、神に対する「ささげもの」です。祈りの答えの結果として与えられたハンナの子サムエルは、神に対して誓願した敬虔な母親ハンナの信仰によってイスラエルの偉大な祭司になりました（サムエル記上１：１１－２２）。

　　満６ヶ月位の胎児であったバプテスマヨハネは、マリアの胎内にいたイエス・キリストに会った時、エリサベトの胎内で喜んでおどりをしました（ルカ１：３９－４５）。この箇所はエリサベトの感情が胎児の動きを決定させ、胎児が無意識的に動き、喜んでいたということより、胎児が自分の感情を表したということを強調するところであると考えられるのです。胎児が喜んでおどるとき、ヨハネの母親はそうしたことを言葉で表し、そのため彼女は聖霊に満たされたわけなのです。

　　キリストが彼女の胎内にいたとき、イエス・キリストの母親マリアは、神にとても美しい賛美をささげたのです。ルカによる福音書１：４６－５５の「マリアの賛美」がそれでなのす。マリアがイエスを妊娠していたときは、彼女にとって安らぎのときではなかったのです。その当時の文化、また常識的状況から考えてみると、処女の妊娠は、人間的な葛藤と不安、悩みがあったのです。絶望的な状況の中に追い込まれていたマリアにとって唯一の希望は、神の強力な導き、また見守りを求めることしかなかったのです。それにもかかわらずマリアは、自分が妊娠した子供に対する神の具体的、また特別な計画があると信じ、喜んでいました。ヨセフとマリアの神に対する信仰と従順によって、人類のメシヤを迎えることができたわけなのです。

　　このような聖書の出来事を通して神は、人間の胎を用いて居られることが分かるのです。特に神は神に対する信仰をもっている親らを選び、その親らを通して母体から、胎児を育てて、成長するように働いて居られることをも分かります。従って、親らは神の「管理人」として子供を育てていくべきであり、そのことが神から与えられたキリスト者としての使命なのです。

　　結びに代えて
　　聖書的教育は胎児から始めるべきです。これが神の教育的原理です。胎内の子は単なる医学的なケーアーの対象ではなく、教育の対象です。それゆえ、胎児の発達を顧慮し、胎児を人格として理解し、その上で教育的ケーアーの研究が必要です。
　　胎児は母体のへその緒を通して、肉体的に必要な養分を吸収すると同時に、母体の霊的な養分をも吸収していくのです。なぜかというと、人間は「神に似た形」よいう「霊的な存在」であるからです。従って、親らが生まれてくる子供の教師となるためには、親ら自信がまず、神の導きの中にいることが要求されるのです。これは、神に対する信仰からなのです。
　　教会はキリスト教的胎児教育の重要性を認識し、胎児教育のためのプログラムなどを行わなければなりません。こうした働きを通して、胎児に関する聖書的世界観が確立されると思うのです。