ネヘミヤ１：５－１１　　ネヘミヤの信仰と祈り



　　一九世紀のイギリスの会衆派教会の神学者であったPTフォーサイスは『祈りの精神』（The Soul of Prayer）という本の中で、キリスト者の祈りの大切さを強調し、次のように言っています。

　　「この世に生活していくために、人は労働をしなければならない。魂を養うため、人は祈りに労苦しなければならない。これは何と崇高な労働であろうか。最悪の罪は祈らないことである。クリスチャンの中に、誰の目に明らか罪、犯罪、言動の不一致をみることは実に意外なことであるが、これは祈らない結果であって、祈らないための罰である。祈りは神聖な力を明確に自分のものにする行為であり、それゆえに祈りは創造的行為である。キリストの贖罪の心は祈りである。これは永遠の御霊において神に対してなされたキリストの自己奉献である」と。一言で言えば、祈りは「十字架のイエス・キリストの心」であり、またキリスト者にとって一番、「尊い働き」である、さらに信仰者にとって「命」である、ということであると思います。

　　私たちキリスト者にとって一番大切なことは、神様との関係です。もし神様との関係がしっかりと出来ていれば、家族との関係、夫婦問題など、どのような問題も問題にならないのです。それは、私たちの人間関係の間に神様が居られるからです。この神様との人格的関係は「祈り」から始まるのです。

　　今日の箇所によりますと、ネヘミヤは「祈りの戦士」だったと思います。ネヘミヤ１：４節を共に読んでみましょう。「これを聞いて、私は座り込んで泣き、幾日も嘆き、食を断ち、天にいます神に祈りをささげた」と。エルサレムの状況について聞いたネヘミヤは、まず神さまに祈りを捧げました。なぜネヘミヤは祈ったのでしょうか。そこには神様に対するネヘミヤの「福音的信仰」があったからです。神様に対する信頼でした。神様に対する謙遜だったのです。こうしたことがネヘミヤの祈りでした。では、ネヘミヤの祈りは果たしてどういった祈りだったのでしょうか。三つに分けて考えていきたいと思います。

　　悔い改めの祈り
　　ネヘミヤは祈るとき、自分の必要なことばかり求めませんでした。神様の恵みばかり願い人間的な祈りにはならなかったのです。神様の憐れみしか願いませんでした。彼は徹底的に、神様の御前で自分の罪、そしてイスラエルの罪を認め、さらに正直に告白しています。そういったネヘミヤの姿が６－７節にはっきりと書かれています。

　　「耳を傾け、目を開き、あなたの僕の祈りをおき聞ください。あなたの僕であるイスラエルの人々のために、今私は昼も夜も祈り、イスラエルの人々の罪を告白します。私たちはあなたに罪を犯しました。私も、私の父に家も罪を犯しました。あなたに反抗し、あなたの僕モーセにお与えになった戒めと掟と法を守りませんでした」と。

　　ここで注目すべきことがあるのです。ネヘミヤの祈り、すなわち悔い改めの祈りには「共同体の原理」という特徴があったことなのです。ネヘミヤはイスラエルの罪を代りに告白しました。自分とイスラエルは一つですから、イスラエルの罪は自分の罪にもなると考えていたのです。イスラエルのように、自分も罪を犯したことを認めているのです。それゆえ、７節に「私も罪を犯しました」と告白しているわけなのです。
ここに真のキリスト者の秘密があるのです。真のキリスト者というのは、自分自身も他の人と同じく、弱くて罪深い人間であること、そうした罪人に過ぎないことを認め、神様の御前で謙遜に自発的に膝まづくことなのです。

　　明確な目的
　　私たちは祈るとき、家族のこと、健康のことなど明確な目的、あるいは理由があるのです。その目的は大まかに個人的なことが多いでしょう。確かに、私たちは自分自身、愛する家族、親戚のために祈るべきです。しかし、それだけがキリスト者としての祈りの義務を果たしたとは、言い難いでしょう。

　　どこの教会でも週報に「祈ってください」と書きますが、正直申し上げまして、週報に書かれている通りに、その祈りの課題を自分の課題とし、祈っているキリスト者は少ないのではないかと思います。他の人のために祈るのをあまりしないようです。これが人間としての私たちのありのままの姿、信仰の弱さではあいか、と思います。

　　ネヘミヤはただイスラエルのために祈ったのです。６節にこう書かれています。「私は今、あなたの僕イスラエルのために、昼も夜も御前に祈り、イスラエルの罪を告白します」と。また１０節には「これらの者たちはあなたの偉大な力とその力強い御手をもって、あなたが贖われたあなたの僕、あなたの民です」というふうにネヘミヤは祈っています。つまり、イスラエルの回復と、神様の慈しみを求めています。イスラエルに対する神様の祝福を求めることが目的だったのです。

　　忍耐に満ちた祈り
　　ネヘミヤは忍耐強い信仰者でした。彼の祈りは忍耐の祈りでした。彼は休まず、一つの目的のため、祈ったのです。ネヘミヤ１：１をみますと、ネヘミヤは第２０年のキスレウの月にエルサレムの状況について聞きます。そして彼はすぐエルサレムとイスラエルの回復のために祈ります。彼はニサンの月に王からエルサレムの総督として任命されます。キスレウの月は今日の１１月、１２月ごろです。ニサンの月は３月、４月ごろです。これはネヘミヤがエルサレムのために半年間、ずっと忍耐を持って、答えが与えられるまで祈っていた、ということを指すのではないでしょうか。

　　また私たちはネヘミヤを通して真のキリスト者の姿を見ます。第一ペテロ２：２０で使徒ペテロは「信仰者の忍耐」について教えています。「罪を犯したために打ちたたれて、それを耐え忍んだからといって、何の誉れになるでしょう。けれども、善を行っていて苦しみを受け、それを耐え忍ぶとしたら、それは神に喜ばれることです」と、信仰者において「忍耐」が必要だと言いました。またヨハネの黙示録でも「忍耐」について強調しています。迫害の時代、いつどこで、どういった形で殺されるか分らない時代に生きていたキリスト者たち、彼らを慰める言葉はただ一つでした。「忍耐を持って、苦難を受ければ、神から必ず救われる」ということだったのです。ですから聖書は「信仰における忍耐」を非常に強調しており、それを「キリスト者の美徳」としたのです。こした信仰者の美徳はネヘミヤの祈りに現れています。

　　イエスと祈り
　　説教の冒頭においても申し上げましたが、祈りを通して私たちは十字架のイエス・キリストの贖罪の心を学ぶことができるのです。イエスの生涯は祈りの生涯だったのです。祈りを持って伝導をはじめ、祈りを持って十字架につけられました。イエス・キリストは夜明けを愛したお方なのです。マルコの福音書１：３５を読んでみると、イエスの祈りの生活が分かります。「さて、イエスは朝早くまだ暗いうちに起きて、寂しいところへ出て行き、そこで祈っておられた」と。

　　イエス・キリストは私たちのために、私たちの罪をご自分の罪とされ、代わりに悔い改めました。イエスは常に私たちのために祈りました。ヨハネの福音書１７章を読んでみると、私たちのために祈ってイエス・キリストの御心をよく分かるようになります。

　　イエス・キリストに従う者である私たちキリスト者は、イエス・キリストより何を学ぶべきでしょうか。あるいはイエスが私たちに望んでおられることは何でしょうか。様々なことが挙げられると思いますが、その中で一つは「祈り」ではないでしょうか。私たちもイエスのように、ネヘミヤのように、夜明けを愛し、神様の御前で常に膝をつくこと、こうしたことが一番大切なことではないでしょうか。神様の御前で、悔い改めながら、明確な目的を持ち、忍耐に満ちた祈りをすべきではないでしょうか。