フィリピの手紙４：１－９　　　　　　　感謝を込めて　　　　　　　



　　問題の所在
　　わたしたちがよく口にする言葉の中で「感謝」と言う言葉があります。ある意味で「教会用語」として定着されたと言っても過言ではないと思われます。辞書的な意味については申しませんが、「ありがたい気持ち、心を伝える」とき、「感謝」という言葉を用いるのです。

　　なぜ、「ありがたい気持ち」を抱くこととなるか、ということを考えてみると、相手から何かをもらうとき、あるいはそのような雰囲気の中に置かれたとき、つまり想像を超えることが起きたとき、人間は「ありがたい」と思い、そして「感謝の気持ち」を抱くようになるのではないかと思います。

　　では、キリスト者は「感謝」をどのように理解し、わたしたちの信仰生活にどう生かすべきなのでしょうか。聖書は「どんなことにも感謝しなさい」と教えているのですが、一般的な「感謝」ということとは性格自体を異にするものが、わたしたちの「信仰的な感謝」ではないかと思います。


　　キリスト者同志がいるから（４：１－３）
　　パウロにとってフィリピの信徒たちは、彼の「喜びであり、冠であり、慕っている兄弟」であったのです（１節）。その理由はフィリピの信徒らはパウロの福音宣教の協力者であり、支えであったからです。彼らは、パウロと同じ思いを抱き、共に福音宣教の前進のために、同苦同楽をしたのです。３節の後半ですが、「命の書に名を記されているクレメンスや他の協力者たちと力を合わせて」とあるように、パウロは宣教の協力者がいるということだけに、感謝しているのではなく、むしろその人たちが「神の命の書」に名前が記されていること、つまり救われたことを最も感謝しているのです。

　　わたしたちにとって、今、ここで共に礼拝を捧げている隣の人は、信仰的な仲間なのです。１ 一緒に物事をする間柄。また、その人。「趣味を同じにする―に加わる」「飲み―」２ 地位・職業などの同じ人々。「文士の―」３ 同じ種類のもの。同類。「オオカミは犬の―だ」４ 近世、商工業者の同業組合。

　　ところが、宣教の仲間とはこういった意味での仲間ではないと思います。わたしたちが仲間に加えられたのは、キリストにおいて同じ思いを抱いているからでしょう。最も正確に言えば、キリストの救いによって同じ思いを抱かれるようになったからでしょう。その同じ思いとは個人的な利益を求める思いではなく、教会に有益になる思いであり、受肉されたキリストの心であり、神が求めておられるものなのです。しかし、よく考えてみると、わたしたちは罪人であり、神の思いを抱けれるような者ではありませんが、神がイエス・キリストにあって一方的にわたしたちを愛し、無名なわたしたちを福音宣教の協力者として立たせてくださったので、ここで教会の仲間として加えられているのです。

　　３節でパウロは「真実な協力者」と言っているのですが、「gunesie  suzuge」というのですが、それは「真実な友」と言う意味です。協力者とうのは、苦しみや喜びを共にする者です。同じの荷物を背負っている者です。そして支えあう者です。意見が不一致するとき、それを調和させる者が協力者なのです。コリント信徒への手紙一４：５です。「主が来られるときまでは、先走って何も裁いてはいけません。主は闇の中に隠されている秘密を明らかに出し、人の心の企てをも明らかにされます。そのとき、おのおのは神からおほめにあずかります」。わたしたちが真実な協力者であることは神に仕える者であることであり、それはわたしたちの奉仕がこの世では認められないかもしれないのです。しかし、神がそれを認めてくださり、神がわたしたちの奉仕を褒められてくださるのです。何を感謝するか、というと教会に真実な協力者が与えられたこと、そして彼らは自分と同じく、神の命の書に名が記されていることなのです。


　　信仰的な慣用（４：４－７）
　　４－７ですが、そこでパウロはキリスト者が喜ぶ理由、感謝を込めて祈る理由について語っているのです。「主において常に喜びなさい」。「何事につけ、感謝を込めて祈りと願いをささげ、求めているものを神に打ち明けなさい」。

　　パウロのいう「喜びなさい」という勧めは、言葉通りに「勧め、あるいは勧告」レベルのものはないのです。「喜びなさい」というのは、信仰に訴える「訴え」のようなものなのです。ここにはパウロ自信の過去の経験が働いたと考えられます。つまり、彼がフィリピで伝道するとき、苦しみをうけ、牢に閉じ込められました（使徒言行録１６：１９－２４）。パウロにとって牢に閉じ込められることは、悲しみであり、絶望あったのですが、しかし、それは神の福音の勝利でもありました。福音宣教が一歩、前進したからでしょう。パウロは福音宣教のために働くとき、いわば敵から攻められるとき、彼は即場で応じることはあまりしませんでした。むしろ、彼は敵からの攻撃をうけ、その結果与えられる苦しみの中で神の喜びを味わっていたのです。５節で「あなたがたの広い心がすべての人に知られるようにしなさい」と書いてあるのですが、こういった「広い心」が喜びと通じるものなのです。つまり、福音宣教の協力者に求められるのは「広い心」すなわち「寛容」がいるのですが、そのとき自分が受けられる苦しみを神の喜びとして受け入れなさいということなのです。そして苦しみの中で与えられた神に訴えたいことを「感謝を込めて」神に祈りなさいということなのです。言い換えれば、何を祈ればいいか、分からない自分に祈りの課題が与えられたこと、そしていわば他人のために祈れる自分に変わったことに感謝しなさいという意味なのです。

　　他人を受け入れること、そしてその人との関わりの中で与えられるいわば「苦しみ」のようなものに耐えることはなかなか難しいことではないでしょうか。海のような広い心の持ち主ではないと、不可能なことのように感じられます。おそらくわたしたちは自分と考え等を異にする人々を批判する、そういった環境に慣れているのではないでしょうか。世間では罪人を憎むのが当たり前です。本当は罪そのものを憎むべきなのに、人間を憎む風潮が蔓延しているのでしょう。もし、わたしたちが罪人を憎む側に立っていると考えてたら、人間を憎むより、自分の過去を見直すべきでしょう。キリストに許された自分をみること、それに気づくことが大事ではないでしょうか。人間を赦すことのできる自分として変わったこと、そこに神の喜びが生まれてくるのではないでしょうか。そして、赦しをもって受け入れた人のために祈れる自分に変わったこと、感謝すべきことではないでしょうか。神はこういわれています。「そうすれば、あらゆる人知をこえる神の平和が、あなたがたの心と考えとをキリスト・イエスによって守るでしょう」。何を感謝すべきかというと、信仰的な寛容をもつようになったこと、そして赦しをもって祈れる自分に変わったことなのでしょう。こられの行いを通じて自分が神に頼れるようになったことなのでしょう。


　　心に留めること（８－９）
　　パウロは８－９まで、終末を生きるキリスト者の倫理的な徳について語っているのです。「すべて真実なこと、すべて気高いこと、すべて正しいこと、すべて清いこと、すべて愛すべきこと、すべて名誉なこと」。これの他、心に留めるべきことがあれば、それを心に留めるべきであると勧告しているのです。

　　心に留めることとは「rogizetes」というのですが、意味は「じっくり考えて、細かいところまで考えて、その後自分の行動を決める」という意味なのです。そのとき何をじっくり考えるべきなのでしょうか。それは「自分がキリストによって神に赦され、神の福音宣教の今協力者として立たせられていること、そして自分の行動や行いが自分自身のも、そして他人にも神の喜びを与えるなのかどうか」でしょう。９節です。「わたしから学んだこと、受けたこと、わたしについて聞いたこと、みたことを実行しなさい」とあります。これは、パウロの自己自賛ではなくて、伝道者として、神の意志を一番にしてきた自分をみて、宣教の協力者として行動してほしいという思いです。キリストにあって与えられた神の恵みが、いわば「安い恵み」にならないように、常に考えて行動に移してほしい、という意味だと思います。実は、わたしたちの行動というのはその一つ一つが、わたしという個人の行動に終わるものではなくて、イエス・キリストにあって救い主である神の人格を表すものなのです。キリストの精神を表すものが、いわば「クリスチャン倫理」なのです。世間のから認められなくても、おかしいことと見えても、感謝をもって移さなければならないの理由がそこにあるのです。世間でいう倫理、あるいは徳というのは、環境、時代、そのときの人間の考えといったものによって影響されるものでしょう。常に、常識的な生き方を求めるのが、世間のいう「倫理、道徳」なのです。そこには、ぞのとき、自分が人々から「正しい」と認められれば、それで済むのでしょう。

　　しかし、クリスチャン倫理、すなわち神が求める徳というのは、時代が異なっても、環境が変わっても、人種、文化等、全てを越えたすべての人々に通じるものなのです。それは、イエス・キリストにあって世を救ってくださった神の人格を表すものであり、宣教の道具からなのです。こういった意味で倫理というのを見直すと、倫理が求められていることは、わたしたちにとって「重荷」ではなく、神に感謝すべきことではないでしょうか。正しいことを行うことのできるようなものとして神に認められている、そして無限な神の人格を罪深いものである私、という惨めなもののわずかな行動を通じて表される、そういう神の恵みの働きに自分が預かっていうこと、感謝すべきではないでしょうか。