使徒言行録１６：６－１０
神の思い

      使徒言行録１６：６－１０とは
　　世界史において大きな歴史的な出来事を一つ挙げるならば、それは、AD３１３年にローマがキリスト教を国教として公認したことだと言えます。皇帝崇拝をしていたローマはキリスト教を厳しく迫害しました。数多くのキリスト者らが殉教し、信仰を守るためには、血を流さなければなりませんでした。キリスト教はローマを征服し、普遍的な宗教として普遍的な価値観を提供する宗教として認められたのです。キリスト教の生命力は、まさに雑草のように強いものです。踏まれても、また踏まれても雑草は、死ぬことなく、土から出てくるのです。歴史が証言する神への信仰は、まさにこうしたものではないでしょうか。ヨーロッパにおけるキリスト教の歴史は、パウロの伝道から始まるものです。先ほど、読んでいただきました使徒言行録１６：６－１０は、イエス・キリストの福音が、御霊の導きによって、ヨーロッパに渡ったことを語る箇所です。

　　使徒言行録にはいくつかの歴史的な出来事が書かれてあるのです。１）聖霊が降ることによって弟子たちがユダヤ社会にて律法が禁ずることを行うのです。つまり、イエスをキリストと伝えることなのです（１－１２）。２）迫害およびパウロの回心によって、福音がユダヤ地方を超え、異邦人世界、特にアジアまで宣べ伝えられることなのです（１３－１５）。３）ヨーロッパまで福音が宣べ伝えられることなのです（１６－２８）。宣教の中心地が、エルサレムからアンティオクへ、そしてローマへ移るのです。福音が西の方に向かって伝えられるのです（北西）。先ほど、読んでいただきました使徒言行録１６：６－１０は、このように世界史においても、また福音の歴史においても、大きな意味をもつ箇所なのです。

　　教会の働きのあり方
　　この箇所を注意深く読んでみますと、福音宣教というのは単なる人間の働きではなく、神の思いに基づいた御霊の働きであることが分かります。異邦人宣教師として神から油注がれたパウロはアジアで福音伝道を計画していました。しかし、それはあくまでもパウロ個人の思いであって、神の思いではありませんでした。

　　６節に、「彼らがアジア州で御言葉を語ることを聖霊から禁じられたので」。

      つまり、聖霊がパウロ一行の計画を禁じたのであります。それで、パウロ一行は計画を変えて、今度はミシア地方の方に行き、そこで伝道をしようとしていました。しかし、その計画も７節にあるように、「イエスの霊がそれを許されなかった」のであります。つまり、パウロのアジアでの伝道計画は、神の御旨にかなうものではなかったのであります。
　　
      魂の救いというのは、神が一番望んで居られることでありまして、救われた私たちにとっては果たすべきことなのです。私たちは生きているうちに、たくさんの人々に福音を宣べ伝えなければなりません。しかし、私たちが忘れてはいけないことは、福音伝道の働きというのは、神の導きがなければできないということなのです。神の御旨に従わなければいけないのです。

　　もし、私たちが果たそうとする計画が神の御旨にかなうものではなければ、神はそれを禁ずるのです。進もうとする道の門を閉ざすのです。教会における宣教の働きのあり方は、つねにそれが神の御旨にかなうものとなければならないのです。

　　新しこを開く
　　アジアでの伝道の働きを禁じた神は、パウロ一行に新たな道を開かれて下さいました。それは、海を渡り、マケドニア州で福音を宣べ伝えることでした。

　　９節「その夜、パウロは幻をみた。その中で一人のマケドニア人が立って、マケドニア州に渡ってきて、私たちを助けてください。と言ってパウロに願った」とあります。

　　この幻はパウロ一行に向けての神の御旨でした。神はパウロがさまざまな偶像を崇拝し、反キリスト教的な哲学思想に支配されていたギリシャで、福音伝道をすることを望んでいたのです。閉ざされていた伝道の道が神によって新たに開かれ、そこでもう一度、自分たちに与えられた神の召しを確信するように至るのであります。神の示した異邦人という概念は「アジア人」だけではなく、ヨーロッパ人まで含んでいたのです。神は、パウロ一行に伝道の道を示すことを通して、伝道者としてのパウロの視野、ヴィジョンを広めてくださったのです。それだけではなくて、１７－１９章などを読めば分かるように、パウロは自分の賜物を十分に用いるのです。学問を身に付けていたパウロにとって、ギリシャという伝道の場は豊かな実を結ぶことのできるところだったのです。神の思いはこうしたことだったのです。

　　思い通りに宣教の働きが進まないとき、計画の通りにうまく行かないとき、私たちはそこで諦めてはいけないのです。そのときこそ、神の新しい幻を待ち望むべきなのです。神が新しこを示すことを期待することが必要です。ここまで、神が導いてくださったならば、これからも神は必ず導いてくださるんだという確信をもつべきなのです。神は、私たちの計画よりはるかにすばらしい導きを与えるからです。

　　１０節「パウロがこの幻をみたとき、私たちはすぐに、マケドニアへ向けて出発することにした。マケドニア人に福音を告げ知らせるために、神が私たちを召されているのだと、確信するに至ったからである」とあります。

　　ここで注目した言葉は「すぐに」という言葉です。パウロは神から新たな道を示された後、躊躇しませんでした。マケドニア宣教のために、計画などを立てることをもしませんでした。「すぐに立ち上がって、出発した」ことは、神の示しには間違いのないものだという信仰があったのです。今の、私たちの立場からみると、無謀な行動とみえるかもしれません。私たちは、結果を予測したり、見通しがみえないと、すぐには行動に移ることはしないからです。また、このようなことは、この世的な考えに過ぎません。

　　教会における福音宣教というのは、神の示しにすぐに反応することなのです。「え～と」とか、「ちょっと、待ってよ」とか、あるいは「いや、それは、今の我々にとって、ちょっと、無理ではないでしょうか」と、よく口にするが、神に対してそのようなの言葉は、要りません。おそらく、パウロが「すぐに、出発することにした」ことは、神に対して「はい、今、行きます」と答えたからでしょう。福音宣教に携わっている者の模範をパウロは、身をもって教えているのです。

　　詩篇１２７：１－２「主ご自身が建ててくださるのではなければ、家を建てる人の苦労がむなしい。主ご自身が守ってくださるのでなければ、町を守る人が目覚めているのもむなしい」。

      イザヤ５５：８－９「わたしの思いは、あなたたちの思いと異なり、わたしの道はあなたたちの道とは異なる、と主は言われる。天が地を高く越えているように、わたしの道は、あなたたちの道を、わたしの思いはあなたたちの思いを高く超えている」とあります。つまり、時には私たちにとって無理な働きのように見えるが、それは、私たちが「神の思い」を把握していないから、「無理だ」「無理だ」というのではないでしょうか。

      神の思い
     パウロがみた「幻」というのは、マケドニア宣教についての神の思い、神の計画だったのです。このように神の「救いの計画」は、人種、境界、地域などを越えるものです。ヨハネによる福音書４章をみると、イエス・キリストがサマリアの女と出会い、彼女に神の福音を教えてくださいました。イエス・キリストと出会ったこのサマリアの女はキリストのことを信じ、そしてイエス・キリストのことを町の人々に証します。その証言した女の言葉によって、サマリアの多くの人々が、イエス様を信じるようになるのです。イエス様にとってサマリア人は差別されるべき人ではなく、神より救われるべき神の子だったのです。このイエス・キリストの行動というのは、神の福音が、ある特定の地域に止まるべきものではなく、またある特定の人々の占有物でもない、ということを物語っていることなのです。

      イエス・キリストは「全世界に行って、すべての造られたものに福音を宣べ伝えなさい」（マルコ１６：１５）と仰せられました。教会における福音宣教の働きは人種、文化を超えなければなりません。私たちが愛すべき人々はある特定の人々ではないのです。キリストの助けを必要としていた人々にイエス・キリストは出会ってくださったように、「渡ってきて私たちを助けてください」と叫ぶ今日のマケドニア人のために、御霊の導きによって神の働きを全うすべきではないでしょうか。