創世記１１：１－１０　　　　　　「神の福音の塔」　　　　　　　　



　　神なき時代の神様
　　今日、私たちのキリスト教会、またその中で信仰生活をしている私たち、キリスト者らが抱いている悩みの中で一つは「神なき時代」において、「どうすれば、神様との交わりの中で、力のあるキリスト者として生きていくことができるだろうか」ということではないか、と思います。つまり、これは「証人としてのキリスト者の生き方についての自己問い」です。科学の進歩によって人間の知識は、ますます発達していくのです。人間は神の領域まで冒しているのです。そうした人間の集まりである社会は、ますます神に背いていき、神は人間に無用の長物になってしまうのです。それゆえ、価値判断の基準は、神様の御言葉ではなく、人間の知恵、経験、さらには科学となってしまっているのです。福音宣教はますます難しくなっています。私たちの教会はこのような社会に直面しており、こうした人間的な考え方に影響されていることも否定し難い事実ではないでしょうか。

　　バベルの塔の時代は、まさに今日と同じような「神なき時代」であった、と言えます。その時代には、神の価値観より、人間の価値観が重んじられたからです。人間が何でもできると思っていたのです。天まで届く塔を建てようとした試みは、まさにそうしたことの証しでしょう。

　　ところが、人間の目で確認はできないが、神様は確かに働いていました。神様は、ご自身対抗する人間に対しても慈しみをもって働きをなさる方です。つまり、世界が創造されてから、今日に至るまで「神なき時代」はなかった、ということです。

　　今朝はこの箇所に基づいて、神様からの「福音」を共に聞き、「神なき時代」において、いわゆる「神の教会」としてどう生きていくべきなのか、ということについて考えていきたいと思うのです。


　　歴史の曲がり角
　　この箇所は皆さんのよくご存知の「バベルの塔」の話でありますが、単なる「神話」ような物語ではありません。創世記全体からみると、この箇所は「歴史の曲がり角」に当てはまるところからです。神様の働きによって世界は創造され、人類の歴史が始まるわけなのでが、その人類歴史の記述がここで「終止符」を打ち、神様の「救済史」が始まるのです。

　　人間の働き場としての歴史より、神様の働き、神の救済の歴史が聖書の主な関心事となっていくのです。創世記１２章からは「アブラハムとその部族の歴史」が始まるのです。神様に信仰に父として選ばれたアブラハムの先祖は、バベルの塔を築いた人々だったのです（創世記１１：２７－１２：１）。アブラハムの選びとうのは、単なる個人の信仰的な歩みではなく、神様の「救済の歴史」だったのです。「バベルの塔」の話はまさに、神の「救いとしての歴史」と人間の歴史との「曲がり角」だと言えるのです。
　　

　　人間の愚かさ
　　まず、神の秩序に逆らう高慢な人間の有様、本性を教えているのです。人間の高慢は「有名になろうとする欲望」からくるものです。3―４節にいきますと、「彼らは、れんがを作り、それをよく焼こう、と話し合って、れんがとアスパルトを用いて、天まで届く塔、町を建てようとします」。欲望は人間の力の限界を拡大し、世界のこと、他の人のことを見下ろしてしまうのです。欲望に捉えられると、人間は「自己中心的な世界観」に囲まれてしまい、それに基づいて世界のことを解釈していくのです。

　　しかし、その解釈によって得られた知識は、人間を滅亡に導く、死んだ知識になってしまうのです。その知識の影響によって人間のは、閉ざされてしまい、目は見えなくなり、耳は聞こえなくなるってしまうのです。真理を悟ることは勿論、「真実をも自覚」することが出来なくなってしまうからです。4節のところをもう一度見てみたいのです。彼らは、「さあ、天まで届く塔のある町を建てよう」と。遅鈍な人間の有様、何も分からないまま高慢になっている人間の愚かさをみることができるのです。

　　私たちは常に「自己中心的な価値観」に取られて生きている愚かなものです。イエス・キリストの十字架の恵みによって救われた私たちは「神様の御心がかなえられますように」と告白しながら、実は「私たちの思い、企て」を最も大切しているのです。私たちは、すぐ私たちの信仰的な行いが、一番正しいと思い込んでしまうのです。神様を教会の外に押し付けた時もあるのではないでしょうか。これらのことは、神様とは、全く、断絶された信仰生活であり、神様とは関係のない「むなしいバベルの塔を築くこと」だと言えるのです。


　　神の慈しみ
　　しかしながら、愚かな人間に対して神様は「人間のために働き」をなさいます。神様は塔のある町をみて、言葉を混乱させて、互いにコンミュニケーションを取れないようにしました。神様は、彼らをシナルの平野から全地域に散らされたのです。神様が彼らを散らかされたことは、彼らの営みに対する恐ろしさを覚えてからではありません。また、それは、彼らが同じ言葉で話していたからでもありませんでした。世界には数多くの言葉がありますが、その原因は「人間の罪の結果によるもの」です。さらに、彼らが散らかされたことは、神様が彼らを憎むからでもありません。神様は言葉を混乱させることを通して、人間が神様に対して罪を犯さないようにしたのです。言葉の混乱は人間の罪の結果としてきたものであると同時に、神様の「慈しみ」による「啓蒙的な導き」だったのです。

　　ノアの時代、神様はノアの家族以外のすべての人間を裁きました。創世記６：５－６をみてください。そこに、「神様は地上に人の悪が増し、常に悪いことばかりを心に思い計っているのを、ご覧になって、地上に人を造ったことを、心を痛められた」ということが書かれております。神様の裁きによってノアの家族以外の人々は地上よりぬぐい去られたのです。その後、神様は「人に対して大地を呪うことは二度とすまい」（８：２１）と御心に言われたのです。これは人間に対する神様の慈しみの約束でした。

　　神様が言葉を混乱させたことは、彼らを「見捨ていないこと」を意味するのです。神様の働きの結果である言葉の混乱は、神様の裁きではなく、罪人に対する神様の「慈しみ」です。人間は、神様とは全く断絶された塔を築き、町を建てたのです。彼らが作ろうとしたのは、「神のなき人間の共同体」でした。神様は彼らのよって人間の歴史の中で客とされたのですが、神様は、そんな彼らに最後まで「慈しみ深い方」でありました。罪人である人間に対しても神様は、ご自身の契約を守ってくださることを通して、神ご自身の慈しみを表されるのです。


　　神のバベルの塔
　　最後に、この箇所はイエス・キリストにあって救われた私たちが築くべき「塔」について教えています。バベルの塔は私たちにとって、「教会を意味」するし、また「個人の信仰的成長のこと」を象徴していると考えられるのです。

　　私たちは私たちが有名になるために、塔を築いてはなりません。神様の御名、またその恵みを知らせるのために築くべきです。教会を「立て直すこと」、また「個人の信仰の成長」の目的は、神様の栄光です。その塔を造るために私たちは、いわゆる「自己中心的な価値観」を捨て、神様を私たちの主人として受け入れなければなりません。なぜ、イスラエルが神様から見捨てられたのでしょうか。それは、彼らが神様から遠く離れていたからでした。

　　エレミヤ書３１：３２節をみると、神様は「私が彼らの主人であったにもかかわらず、彼らはこの契約を破った」と仰せられています。神様が願って居られる天までつなぐ塔を築くためには、神様のもとに帰らなければなりません。

　　しかしながら、神様とつなぐ塔を築くためには、こうしたことより、最も重要なことがあるのです。それは、私たちがイエス・キリストにあって「一つの体」として統一されなければならない、ということなのです。それは「イエス・キリストのみ、神様と繋がっている塔」からでり、キリストによって私たちは「一つ」になることができるからです。同じ言葉で、話しをしていても、私たちは、価値観、考え方など、それぞれ違います。最も率直に言って、今共に礼拝を捧げている「隣の人」が「何を考えているのか」、あるいは彼らの「悩みは何なのか」、ということをもよく分かりませんね。イエス・キリストにあって私たちは互いに理解し合うことが必要です。キリストから離れると私たちは何もできません。

　　ガラデや書３：２７－２８では「バプテスマを受けて、キリストに結ばれたあなたがたは皆、キリストを着ているからです。そこにはもはや、ユダヤ人も、ギリシャ人もなく、奴隷も自由な身分の者もなく、男も女もありません。あなたがたは皆、キリスト・イエスにおいて一つからです」と。

　　また、ガラデや書５：１６以下においてこう言っています。「霊の導きに従って歩みなさい。そうすれば決して肉の欲望を満足させるようなことはありません」と。

　　さらに、コリント信徒への手紙一１２：２４－２５においてもこう言っています。「神は見劣りのする部分をいっそう引き立たせて、体を組み立てられました。それで、体に分裂が起こらず、各部分が互いに配慮し合っています」と。私たちが「一つになること」は、天までつなぐ塔、つまり「目に見える建物を建てる」ためではなく、「神様の働きを全うする」ためなのです。これはキリスト・イエスに結ばれてからはじめて可能となることです。


　　神なき時代に向けて
　　神なき時代に向けて、私たちの存在意義はどこにあるのでしょうか。それは、神様のみが「世界の持ち主」であること、神様は愚かな人間に対してもいつも「慈しみ」をもって、私たちのために働いていること、さらにイエス・キリストにおいて結ばれている教会こそ、神様がこの時代に求めて居られる「神のバベルの塔」であること、そういうことではないでしょうか。一言で言えば、それは「イエス・キリストにあって表された神の福音の塔」ではないでしょうか。イエス・キリストの十字架の贖罪によって建てられたこの「神の福音の塔」こそ、神なき時代においての唯一の希望からです。